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今秋劇場公開作品を振り返る②~アトミック・ブロンド~

基本情報

原題:Atomic Blonde

製作年:2015年

監督:デヴィッド・リーチ

脚本:カート・ジョンスタッド

製作主導:COMエンタテイメント,87イレヴン,デンヴァー&デレラプロダクション

製作国:アメリカ合衆国

 

『アトミック・ブロンド』の登場人物

壁を越えて東西を行き交うスパイ達

ただ一人生還した女スパイ"ロレーン・ブロートン":シャーリーズ・セロン

リストの所持者だったガスコイン:サム・ハーグレイヴ

リストを強奪したユーリ・バクティン:ヨハン・ハウクール・ヨハネソン

名うての英国諜報員デヴィッド・パーシヴァル:ジェイムズ・マカヴォイ

未熟過ぎる仏の諜報員デルフィーヌ・ラサール:ソフィア・ブテラ

サッチェル:???

ベルリンで何があったのか、ロレーンを尋問する上級幹部

C:ジェイムズ・フォークナー

エリック・グレイ:トビー・ジョーンズ

何故か同席しているCIA幹部エメット・カーツフェルド:ジョン・グッドマン

ベルリンの協力者たち

リストを記憶する"スパイグラス":エディ・マルサン

時計店の主人:ティル・シュヴァイガー

メルケル:ビル・スカルスガルド

KGB幹部ブレモヴィチ:ロラン・モラー

『アトミック・ブロンド』のあらすじ

冷酷な殺し屋にして、腕の立つ諜報員でもある女スパイ"ロレーン・ブロートン"。

彼女の証言を、MI6及びCIAの上級幹部である男達が、固唾をのんで見守る。

一週間ほど前、彼女がベルリンにて遂行した任務の全容を把握する為に…

 

1989年、冬。壁崩壊を目前にしたベルリン。課された任務は以下の三つ。

Ⅰ.殺されたガスコインの遺体を本国へ移送

Ⅱ.その彼が所持していた、ベルリンに潜む全スパイの情報リスト奪還

そして

Ⅲ.英国に背き、情報漏洩を続けている二重スパイ"サッチェル"の抹殺

英国諜報員ガスコインを殺し、リストを得たKGBのバクティンだったが

資本主義に目が眩んだのか、何故か彼は姿を消し、未だベルリンの闇に隠れていた。

そんな中、パーシヴァルによってリストの情報を丸暗記しているという

独秘密警察の裏切り者"スパイグラス"の存在が明らかとなる。

 

全て順調に進むと思われた任務だったが、尋問を続ける内に

ロレーンが実際は、後手へ後手へと追いやられていた事が判明。

もしリストが敵に渡れば、ベルリンの仲間達は全員殺されるだろう。

独り闘争を続けるロレーンだったが、事態は暗転。更にサッチェルの影も迫る。

果たしてリストは何処へ消えたのか? サッチェルとは一体、何者なのか?

事の運びを報せるべく、彼女は静かに語り始める。

レビュー『ウォッカ大好き女スパイが挑む、ベルリン地獄の一週間』

オススメ強度:★★★★

共産主義支配から脱却するべく、官民がゴタゴタし続けるベルリンを舞台に

これまたブラックスキャンダルなドラマが展開する女スパイアクション大作。

耳にこびりつく'80年サントラとダサカッコダサいファッションに頭がくらくら。

劇中においても英語のみならず、独語、露語など様々な言語が飛び交っています。

『コードネームU.N.C.L.E.』は、本作と同じく冷戦を描いたスパイ活劇映画ですが

アプローチがまるで正反対で、あちらはきな臭い描写はあっても

色彩はビビットに明るめなエンタメ映画としてのスタイルを貫いたのに対し

コチラは、何処までもダークで冷戦と諜報の暗黒面を徹底して描いています。

本作はAntony Johnston氏が手掛けたグラフィック・ノベルである

"The Coldest City"を下地としており、ある意味ではアメコミ実写企画でもあります。

劇中でもマンガのコマ割りでしか見られないような奇抜なカットや

演出が多数見受けられ、製作陣の意欲的なスタンスが窺い知れます。

しかしながら、スタイリッシュなシャーリーズ・セロンが次第に

ボロボロな姿に変わり果てていく、野蛮過ぎる演出と画風に衝撃!

更に長回しの多用等は、昨今のアメコミ映画と真逆なスタイルで終始圧倒されます。 

 

スパイグラス襲撃を決行する屈強なKGBの男達を相手取り、迎撃しようとするも

だんだんと劣勢となりアパートの一室で殴られ、血だるまになり

ベロベロのグロッキー状態になっても尚、相手を殺そうとする妄執ぶりが強烈。

とにかく主演を見事に務め上げたシャーリーズ・セロンの

文字通り体張った熱演ぶりと、監督デヴィッド・リーチら製作陣の

光の明暗を際立たせた撮影、更にカット割りをカットした編集技法に舌を巻きます。

暗い場面が多いにも関わらず、キャラクターの動きをハッキリを捉えており

アクションシーンはいずれもカタルシスに富んでいます。

またアパートでの戦闘や車での逃走シーンは、

まるで1カットの長尺の様ですが、良く観ると編集点が点在してます。

シャーリーズ・セロン女史は男にボコボコにされ、仲間を惨たらしく殺されても

尚も冷静なロレーン・ブロートンという女性になりきって

強い説得力と生々しい気力を銀幕に与えています。

仮に主演がRebecca Blackだったらまた違った評価だった事でしょう(白目)

 

それと、本作の主役かつ狂言回しであるロレーンがパワフル過ぎる為に

見落とされがちですが、脇を固めるキャストらも中々ユニークで印象的でした。

またしてもオイシイ役所で幕を閉めたジョン・グッドマンに加え、

リメイク"IT"のペニーワイズ役で全米を震撼させたビル・スカルスガルド、

ベルリン東西を繋ぐ橋渡し役にティル・シュヴァイガー、

キングスマンでは破裏拳ポリマー並みの旋回暗殺者ガゼルが超カッコ良かったのに

本作では「なんでスパイになっちゃったの?」と小一時間問い詰めたい程ヘタレで

未熟過ぎる、おフランス女スパイ役にソフィア・ブテラとかなり個性派な顔ぶれ!

 

とりわけ上司に「一緒に仕事しろ」と指示されたのに、

不穏な独断専行を続け、終始場を乱し続けるパーシヴァル役のマカヴォイに脱帽。

スプリット観た時も思いましたが、マカヴォイは準主役か脇役で

ネジ外れてる変な役演じてる瞬間が個人的にかなりツボです。

やや地味なカラーリングですが、劇中で彼が操るポルシェも中々にクールでした。

X-MEN撮影時は痩せぎすな体系でしたが、本作ではかなり鍛え上げたらしく

引き締まったワイルドなスタイルで、ベルリンを自在に疾駆しまくり。

野蛮な素行に加え、スパイグラス役のエディ氏と並ぶと例のアレを彷彿させます。

それでもブルースと比べた場合、本作のパーシヴァルは切れ者で相当マジメですが。

 

パーシヴァルの無軌道ぶりは本作の要ですが、ある意味では被害者でもあります。

多分、劇場に足を運んだ人の多くがストーリーが膨らむに連れ

殺意を抱きながらパーシヴァルの動向を見据えた事でしょうが、

終盤の展開では何だか不思議と彼に同情してしまい、逆に冒頭で冷却風呂から

血とアザで腫れ上がった姿を露わにするロレーンを観て

最初は「かわいそう…」と感じていたハズなのに、今では

「彼女なりのケジメを付けたのだ」と丸っきり違った印象を感じさせ、

彼女の芯の強さやドライ過ぎる姿勢にただただ驚嘆するばかりです。

 

'80~'90年代に駆けてブラピやヴァンダムのスタントダブルを務め、

マトリックス三部作以降は特技監督、スタントの振付師やコーディネーター

更に第二班の撮影監督などで、今日まで腕を磨き上げてきたリーチ監督と

御年41歳にしてしなやかなスタイルとタフなフィジカルで過酷なスタントに臨んだ

シャーリーズ・セロン女史両名の底力をひしひしと感じさせる意欲作です。

「VFXなんぞに頼ってんじゃねェ! こちとら生身で長尺じゃ!」

という咆哮すら聞こえて来そうな新時代のダークスパイアクション、堂々推参です!

解説『どこかで観たような、けど誰も観た事の無いフィルム・ノアール』

今まで誰も観た事が無い、斬新な切り口のフィルム・ノアールですが

007等のスパイ映画や、レベッカ・ローミンが主演した悪女モノ

『ファム・ファタール』のオマージュも感じられます。

またポルシェやボルボ等の欧州車も数多く登場しますが、

出る車出る車、とにかく全部地味で如何にも大衆車といった風で笑えます。

戦闘シーンにしても、もっとスタイリッシュに仕上げる事も出来たハズなのに

あえて血生臭い演出で、敵もしつこくやたらと屈強な設定となってます。

その為に『スパイ映画』というジャンルが、如何にファンタジックであるか

オチも含め、私達に教えてくれてもいます。

 

もともとプロデューサーとしても本作の製作企画に参加していた

シャーリーズ・セロンが、ジョン・ウィック第一作目の成功に興味を示し

(クレジット無しながらも)チャド・スタルスキ監督と共同製作に当たっていた

デヴィッド・リーチ氏を企画に招聘したのが一昨年の事。

監督のポストにリーチ氏が確定するとキャスティングも本格化。

その年の冬にはベルギーでの撮影がスタートしたそうです。

 

グッドマンが演じたCIA高官役には元々デヴィッド・ボーイ氏が

出演を打診されていたそうですが、結局オファーは取り消しに。

その後、まもなく還らぬ人となりました。

エンディングにはQUEENとの共作である、当時の世相を表現したかのような

Under Pressureが大音響で鳴り響き、泣かせます。

欲を言えば、予告編で流れていたKiller Queenを劇中でも聞きたかった所。

劇中ではサンプリングを問題視するフラッシュニュースが流れてますが、

Vanilla ice...ice ice baby...Under Pressure...うっ頭が…

 

知っての通り、第一作目の公開が完了した直後、ジョン・ウィック製作陣は

速くも二作目に向けて本格稼働した為、二作目にも参加する予定だった

リーチ監督含め一部のスタッフは、そのウィックの企画から離脱し

本作のプロダクションに合流。セロンとキアヌは同じスタントジムで

アクションの振り付けやスパーリングを行い、互いが主演するフィルムの為に

切磋琢磨していた事を、後のインタビューで明かしています。

(↑セス・メイヤーの冠番組にて。スタント練習中のキアヌの様子や撮影期間中の家族の雰囲気などを和やかに語るシャーリーズ・セロン御大)

かつては『ディアボロス-悪魔の扉-』

『スウィート・ノベンバー』

夫婦役を務めた事もあった二人が、

今になって顔合わせて殺し屋の鍛錬とかシュール過ぎませんか?

 

ジョン・ウィック第一作目の経験もあってか、あえて暗所を舞台とした撮影

ビジュアルやBGMの異様なこだわり等、似通った共通点も多数存在します。

ジョン・ウィックが更なるスケール拡大を狙っている一方、

興行的にも一応成功となり、批評家の反応も堅実な物となりそうな

本作が一本だけで終わるのも勿体ないような気もするので是非続いて欲しいです。

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