血を吸う大地のよろずブログ

映画&ゲームのマイナータイトルの感想ダラダラ書いてる

他人に不寛容な社会でマジメに暮らすアホらしさ『JOKER』をザックリとレビュー

維持する事は辛く険しいが、ブツリと破断させるのは容易いという矛盾

オススメ強度:★★★★★

DCコミックスの象徴的ヴィランであるジョーカーを主軸とした実写映画。30kg近い減量でロケに臨んだホアキン・フェニックス扮する、無理矢理ポジティブな言い方をするなら夢見がちなコメディアン志望の男『アーサー・フレック』のメンタルヨレヨレぶりに驚愕。そして一度罪を犯した瞬間から「自分とはこうである!」というアイデンティティに突然目覚め、純粋な無秩序"JOKER"になるまでを描いたサスペンスフルな一作。

断煙してもうしばらく経つんだけど、またタバコ吸いたくなってしまう罪な映画でもある。

DC傘下のアメコミ映画ながら既存の実写映画シリーズDCEUからあえて切り離され、金も物資も無ければ精神的ゆとりも持てない現代社会を露骨に攻撃しているブラックな映画。また周りがそんな様相で普通に生きる事すら辛いのに、そこで極限状態を強いられる弱者のいたたまれなさも徹底的に描写している。

撮影前に全スコアを完成させたというヒルドゥル女史のサントラも凄まじかった。あのグロテスクなチェロだけでも価値ある映画だったと思う。


Joker - Defeated Clown - Hildur Guðnadóttir (Official Video)

その完成度からか、所謂タレント起用の広報や吹き替え版の劇場公開を敢えてしなかったにも関わらず、ここ日本でも大ヒットしてる様子を観るに、今の時代の息苦しさを世界の全員が痛感しているんだろう。

精神疾患か何らかの発達障害(両方だったのかもしれない)でコミュニケーションがうまく取れず、日々妄想に悩まされ更にストレスを感じると笑い出してしまうアーサー。しかもコメディアンになりたい!と意気込んでるのに笑いのツボが分からず、他人の表情をいちいち伺う有様。不器用なりにも善良で節度ある日々を暮らしていたが、周囲の目は冷たく、処方箋の為に当てにしていた福祉行政は市によって廃止され、ピエロの仕事もマズくなり…

故意では無かったとは言え、案の定一線を越えてしまうアーサー。パニックになってトイレに駆け込むシーンは劇場に響くチェロも相俟ってビリビリ痺れた。笑うでもタバコ吸うでも無く、体を歪ませながら踊り狂う疲れきった人。際限なく継続する事は難しいが、逆に壊す時は一瞬で、清々しい爽快感に溢れている。

いわゆる持つ物も拠り所も無く、無慈悲な凶行に走る犯罪者を指差して『無敵の人』と揶揄したりするらしいが、劇中のバラエティ番組でアーサーが挙げる怒鳴りが、京アニ放火事件の前日に青葉容疑者が起こしていた隣人トラブルで言い放った暴言そのままだったり

www.sankei.com

暴徒化したピエロが街中に溢れ、炎に包まれるゴッサムを「香港みたいだ」と評する声もあり超格差社会と民族の分断が進む欧米のみならず、ここアジアでもタイムリーでセンセーショナルな社会派ドラマに仕上がっている。*1

ベネチアで金獅子を獲得した本作だが、主演のホアキン含めアカデミー賞での受賞レース間違い無しとの評も有る一大『喜劇映画』。アメコミ映画だからと偏見を持ってる連中こそ、むしろショックを受けるだろう。"JOKER"誕生は、これから2010~20年代のきな臭い世相を映し出したクラシックになるかもしれない。

人のカラダだけでエイリアンみたいなバケモノを表現出来るか?

地下鉄の表現からなんとなく『ジェイコブス・ラダー』が彷彿された。

ザジー・ビーツ扮するシングルマザーとの関係が実は…って展開もあり、劇中で薬の処方がストップしてから妄想が激しくなってないか?という指摘があって、スマホ見ながら「なるほど!」と唸ってしまった。もしかしたら銃を撃つ覚悟なんてまるで無くて、今もアーサーは地下鉄で殴られてる最中なのかも…

モンティ・パイソンのレギュラーメンバーだったグラハム・チャップマンが亡くなられた際、彼の葬儀でエリック・アイドルらが揃ってAlways look at the bright side of lifeを歌ったそうだ。


Graham Chapman's funeral

ラストでJOKER誕生を祝いつつ、見慣れたアーカム・アサイラムの様子を写しながらフランク・シナトラのThat's Lifeが流れるんだけど、アーサー・フレックはもう完全に何処かへ消えてしまったようにも思われて泣かせる。


That's Life (Remastered 2008)

ホアキンの減量も良かった。クローネンバーグとかリドリー・スコットみたいな映画は特撮技術ありきだと思うんだけど、ホアキンのごつい骨格は痩せるだけでそれを表現してしまった。ガキ共に殴られた次の日、ピエロの靴ひもを広げてるアザだらけのアーサーの背中がなんかフェイスハガーが飛び出て来るアレみたいなんだよね。

ゴッサムに溢れる湿気とゴミ、窮屈な部屋や冷蔵庫に閉じ籠るカット、降りしきる雨、周囲の冷たい目、出生の謎、そういった有象無象がアーサー卵に詰まって溜まって、生まれて来たのがあのJOKERだった。それまでジメジメして真っ暗だったゴッサムが生まれ変わった途端、晴れ晴れしく色彩豊かで視界も広くなるというのはヒドイ皮肉だと思う。youtubeに目を惹くコメントがあった。

JOKERのオリジンは?

'90s:put him in toxic chemical barrels.

90年代:猛毒のタルに放り込んだ。

2019:put him in society

2019年:彼を社会に放り込んだ。

本作は理解が進まずに弱者になってしまう精神疾患や発達障害の罹患者、被虐待者の悲劇でもある。今後、本作を通じて貧困のみならず、障害や過去の経験から生き辛さを感じる方々にも支援の裾野が広がってくれると有り難い。

それと前述した通り本作はDCEUとは切り離された作品だが、ココに来て「ホアキン本人が希望するなら」と監督が示唆。

eiga.com

しかし、あのアーサーがペンギンとかスケアクロウだかと絡む場面がとても想像出来ないな(笑) 犯罪の道化どころか「友達できた!」と喜びそうなぐらいだし。まぁダークナイトのヒースジョーカーにも模倣犯説があったぐらいだし原作コミックでもあった様に、あのゴッサムで暴れ始めるのはアーサーのフォロワーかもしれない。

アメコミ知らない人にも勿論オススメなんだけど、ウェイン夫妻の銃殺含めバットマンのビギンズもそれとなく描き、しかもJOKER≒ゴッサムの狂気そのものであり、出生自体はナゾのままという設定も痺れた。DCアメコミ映画特有の奇抜で印象的なビジュアルはそのままに、様々な問題を提起する突き刺さるような鋭い作品だ。R-15なんで子供には見せられないが、是非、今秋色んな方にご覧頂きたい一作。

*1:

しかも、当の香港では覆面禁止法が施行された結果、逮捕者が次から次へと続出している現状を観るに兎に角タイミングが良過ぎる(?)映画なのだった。

news.tbs.co.jp