血を吸う大地のよろずブログ

映画&ゲームのマイナータイトルの感想ダラダラ書いてる

虐げられるセレブと冷酷なエンジニアの無情な対比を描く猛毒SFエログロ風刺劇!「アンチ・ヴァイラル」!!

あらすじ

TV、ネット、紙面、あらゆるメディアに溢れるセレブの顔、顔、顔。セレブへの憧れが、果てなく暴走し続ける近未来。そこに着目したバイオ企業は彼ら、彼女らが罹患した『疾病』を販売するという新規事業を開拓。

一見する限りどうにも理解し難い、狂気に満ちたこのベンチャー事業。しかし、セレブにもっと近付きたい!彼らの苦痛すらシェアしたい!という一部の狂信的な民衆から熱烈な支持を受け、市場はむしろ日に日に熱を増していった。 

ルーカス・クリニックもまた、そんな『セレブの病気』で莫大な利益を叩き出し、業界を牽引する一大バイオテクノロジー企業。そして主人公であるシド・マーチは、ルーカス・クリニックに勤務する新進気鋭のエンジニアで、腕の立つ営業マンだ。

彼らエンジニアが駆使する『端末』によって、セレブのウィルスにはそれぞれ『コピーガード』が仕掛けられる。 このガードで病気の感染を予防し、なおかつウィルスに『顔とロット番号』を与える事で、維持管理も簡単になった。企業もまた提携したセレブを通し、『病気の限定感』を顧客に訴求して、目玉商品として大々的に市場へ打ち出す事が出来た。 

しかし、シドは違った。 エンジニアとしてプライドこそあれ、会社に対する忠誠心が無いシド。営業中、ウィルスを自らの体に投与し、会社の監視をすり抜けては自宅でコピーガードを解除し、海賊版ウィルスをアングラな輩に売り捌く毎日。そんな中、提携中のセレブであるハンナ・ガイストが病気で倒れる。

ハンナの血を採取するべく、ホテルに向かうシド。案の定、シドはハンナの血を素直に会社へ持ち帰るつもりも無く、自らに投与。早速自宅でハンナのウィルスを解析しようとするシドだったが、異常な幻覚に囚われたシドは、そのまま自室で昏倒してしまう。

間もなくハンナが逝去。同じ病気に罹患した形となったシドも酷く疲弊し始める。時を同じくして、彼の周囲で不穏な動きが目立つようになる。

ハンナは何故死んだのか?自分の身に一体、何が起こったのか?ウィルス・エンジニアの孤独な闘争が始まる。

レビュー『絢爛豪華なセレブが人権を無視され、終わり無く搾取され続けるという皮肉』

オススメ強度:★★★★

長綿棒を鼻に突き指してから一気に引き抜いたり、注射針のカットが延々続いたり、グロテスクな肉片を映してみたり、主人公とヒロインがひたすら喀血して苦しんだりと全編通して生理的に不快な描写が徹底された、硬質で冷たい作風のSFスリラー。黒と白の二色を基調としたシックで退廃的なカットが続く中、血の赤色やインテリアのブラウン等が差し色的に目に映え、とても優雅。

一方、ある種のフィルム・ノワール物にも感じられる一作。タイトルである「アンチ・ヴァイラル」に対し、劇中の主人公が真逆の事を生業にしてるという点も、なんとも酷な皮肉に思える。

予告編だけ観ると、技術屋が仕事にのめり込む内にヘルレイザー的なクリーチャーに変身して大暴れするSFスラッシャー物かと勝手に想像していたが、どっこい中々に毒の効いたSF風刺劇で脳髄をビシバシ刺激してくる。

主人公シドを演じたケイレブ氏が、睡眠導入用のささやき音声やASMRよろしくひそひそ声で、商品のウィルスをねっとりと顧客に勧める冒頭がやたらフェチ。

トレイラーに登場する機械と融合したバケモノのカットがある。あれは実の所、主人公シドの抱く抽象的なイメージで、むしろ目的の為ならば何処までだって残酷になれるという、利己でエゴい人間性の内側を描く、ひたすら胸糞悪いドラマに仕上がっている。 商品バーコードを、歪んだ顔で表現した製作陣のビジュアルセンスに脱帽。

やや難解な印象を受けるが、前述の通り本作の仕掛けを通し、現代社会のゆがみを巧みに表現。 思いのほか登場人物が多いけど、飽くまでメインはシドとハンナのふたりだ。劇中、ハンナの葬儀があまりにも大仰過ぎた描写で笑ってしまう。このハンナ・ガイストのモチーフは、かつてのマリリン・モンローか、あるいは不審な死で英国に影を落としたダイアナ妃なんだろう。

しかしながら、ショウビズマニアやパパラッチの暴走により、一挙手一投足なにから何までメディアに捉えられてしまい、プライベートもクソもまるで無い状態は、現代セレブの現状を嘆いているかのようだ。

それ以外に盛り込まれたテーマも実に多種多様。利権優先で海賊的経営を行う企業に対する、単純なアンチテーゼとも取れるが、モダンでシックなクリニックに足繁く通い、ウィルス投与に夢中な消費者の様子は、美容整形やアンチエイジングの奇妙な需要に対する皮肉とも取れる。

その他、流血を伴う熱病であったり、注射針を駆使するシドの描写はあちこちで蔓延る違法な薬物売買の脅威そのものなんだろう。劇中のシドは窮地に追いやられても、何処か打算的に立ち回っており、意外にも発想の転換から技術屋のサクセスストーリー的に幕を閉じる。

この終盤のドギツさがまた凄まじいの一言。

ステータスシンボルとして成功の絶頂にあるハズのセレブが、何処にも拠り所も無く、ゴミ同然に消費されるラストに心打たれる。終盤の展開、そして枯れたプールの底でハンナの部屋を見つめながら体温計を口に咥えたシドの姿は、まるで現世に生きる死神みたいだ。

ソフト解説

ソフトはblu-ray版を購入。思いの外、手厚いソフト構成で満足。原語字幕版と日本語吹き替え版あり。映像特典もそこそこ入ってる。

ハンニバルにて、意地汚いライターのフレディ・ラウンズを演じたララ・ジェーン・クロステッキがちょい役で顔見せしてて得した気分。カット構成がとにかく巧みで、何処で一時停止しても、画面がまるでビジュアルポスターのように美しい仕上がりで惚れ惚れする。

全体的に白が目立つカットが多い物の、ややライトを抑えた撮影だったらしく、日中のシーンは、光が差している所でもザラザラした質感で暗めに感じる。

逆に、暗所や夜のカットはめちゃくちゃ高精細で綺麗過ぎてビビる(笑)

今作はブランドン・クローネンバーグ氏の長編映画監督処女作で、彼の実父はあの!あの!!デヴィッド・クローネンバーグ監督!!

SFながら説得力を持たせるギミックのディテールや、猛毒を伴う現代風刺の作風を、お父上から見事に受け継いでおられる!テレビに閉じ込められたようなセレブの姿、終盤血を吸うシドの描写などはお父上へのオマージュだろうか。

(↑虚像への憧れ、視点次第で容易く変わる人間のエゴや身勝手さ等、本作にやや似通ったテーマやアンチテーゼを孕んだカルトSFの隠れた名作。シドがもしバケモノの姿で暴れてたら、多分この映画の二番煎じになってたと思う。)

ただ我の強すぎた作風だったお父上に比べ、ブランドン氏の手がけた本作はシンプルで主題性がより伝わる形となっている。

父デヴィッド氏は'80~'90のフィルモグラフィがやはり強烈だが、現在も精力的に映画家として創作に携わっており、本作でハンナを演じたサラ・ガドンを三作立て続けで起用中。親子揃って今後の活躍がとても楽しみ。 

シネフィルには勿論の事、本作をオススメしたい理由としてはもう一つ。

それは観ると具合が悪くなるから。

前述した通り、本作はとにかく気色の悪いカットの目白押し。グロ耐性が無い方なら即、卒倒間違い無しだろう(汗)明日、どうしても仕事に行きたかない‼という方へオススメ!!

さぁ、ルーカス・クリニックのソファに横たわり悪夢世界へ旅立とう。

(↑映像特典はだいたい一時間程度でしょうか。色々と生々しい情報が目白押しのメイキング映像と来日時の監督&ケイレブ氏のインタビューは必見。なんか監督が若い頃のマリリン・マンソンみたい。)

インフォ、キャスト、製作スタッフ等まとめ

原題:Antiviral

製作年:2012年

監督・脚本:ブランドン・クローネンバーグ

製作主導:アライアンスフィルムズ,TF1インタナショナル,テレフィルムカナダスタジオ

製作国:カナダ,フランス

登場人物

シド・マーチ:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ

ハンナ・ガイスト:サラ・ガドン

逮捕された技師デレク:レイド・モーガン

肉屋の主人:ダン・ウォリー・スミス

皮膚片を埋め込んだ医者:マルコム・マグダウェル

クリニックの倉庫番:ララ・ジェーン・クロステッキ

レヴィン:ジェームズ・ケイド

('19 10/6 追記修正)