血を吸う大地のよろずブログ

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胸糞悪い銀行強盗モノ『インサイド・マン』をザックリとレビュー

今になって観返すとまるで違った印象を抱く社会派サスペンス

オススメ強度:★★★★

公開当時、TVで流れた本作の試写会コマーシャルが忘れられず、まだまだガキの分際ながら劇場へ足を運んだ映画で、かなり想い出深い一作。すこし横道に逸れるが、物語のオチに用意されるどんでん返しは英語で"Plot Twist"と表現される。

ハナシとしては銀行強盗モノであり、本作の"Plot Twist"もひょっとすると当時の時点で既に陳腐だったのかもしれないが、当時の自分にとって本作のオチはまぁっったく予想出来なかったし、劇場のスロープを歩いて出て行く最中にチビリそうな気分だった*1

しかし、今になって観返すとスパイク・リー監督の演出があまりに尖り過ぎてる為、当時感じた「なんだ今観たカッコ良い映画は…なにかとんでもない物を俺は観たかもしれない!」みたいな感想は何処へやら。むしろ登場人物ひとりひとりの生々しい言動にイラ立ちすら覚える。

晴れ間差すマンハッタン。白昼堂々発生した、あまりに大掛かりな武装強盗事件。市警のキース(デンゼル・ワシントン)やFBI、更には銀行側の重役に雇われた女弁護士までもが加わり事件の解決に尽力するが、行内に立て籠もった強盗団はハッタリをまき散らし、状況は錯綜し続ける。

犯行現場となった行内の様子が刻一刻と悪化する中、顔を隠した主犯らしい男に注目が集まるが、それらしい被疑者は一向に浮かび上がらない。果たして事件は解決出来るのか?正体不明の強盗団は一体何者なのか?事件の先行きが分からぬまま、キースら警官達の熾烈な闘いが始まる。

大型予算の犯罪映画と言えばその通りなんだが、本作ではそれに加味して人種のるつぼとも称されるアメリカの複雑な市民性だったり「他人の事はどーだって良い!自分さえ良ければそれでいーの!」という、資本や物資ばかりに目が向く即物的な思想さえ浮き彫りになっている。特にイスラム圏に対する憎悪が未だに止まないアメリカで、たまたま行員として勤めていたムスリムの男性を犯行グループが唐突に開放する場面が印象的だった。

この男性、さっきまで行内に軟禁されていた被害者側の人物にも関わらず、近寄った白人警官は露骨に疑り深く当たる所か、「コイツ言う事聞かねーじゃねーか!」といきなりマジギレして地面にはっ倒す勢い。とりあえずキースとビル(キウェテル・イジュフォー)に連れられ、近くのコーヒーショップで事情聴取ついでに宥められるが当然ながら本人は釈然としない。

しかし事件に臨むキースとビルも、このムスリムの男性から聞きたいのは銀行内の情報なワケで謝罪も気持ち半分ぐらいに済ませて、後の対応を所轄に一任してしまう。犯行グループはそういったアメリカ人が他者に抱きがちなネガティブな印象だとか、あるいは普通は知らないだろうし気にも留めないような情報を、それこそ観てるこっちまでイライラするぐらい駆使して現場を掻き乱す。

そしてデンゼル&キウェテルがコンビで演じた警官二人組も、悪く言えばかなり俗っぽく品が無い風に演出されている。こういう警官・刑事モノで無くとも、フィクションの主人公ならば「清廉潔白な正義のヒトであって欲しい」と誰しも自然と願いがちだと思う。だが情報提供者が上から目線で生意気なクチ利いたらムカつくだろうし、事情聴取の相手がイイ女で巨乳なら気にもなるし、一日緊迫した状況下にあれば手に脂も溜まるハズだ

勿論、キースとビルの言動に眉をひそめる方も居るだろうけど、その粗暴さ下品さもまたリアルだし、その気持ちも分からんでもない。それと主犯の男(クライヴ・オーウェン)が、暴力的なゲームで遊んでる人質の子供を観て「そんなゲーム良くないぞ」と自分の方がよほどタチの悪い犯罪をリアルタイムで犯してるにも関わらず一言説教するシーンは映画史に名を遺すレベルでヒドイ笑い所だと思う。

理想を追い求めても世の中は矛盾だらけという事実を、長年ショウビズでアフリカ系として闘い続けて来たリー監督は見逃さない。ダルトン、キースとビル、女弁護士のマデリーン、全員聖人とはとても言えないし、観ていて苛立ちもするんだが不思議と共感もしてしまう。また犯行グループの動機の根本にあるのは、差別を被り、犯罪に巻き込まれた被害者の怨嗟だ。劇中、主犯の男はキースに妙なシンパシーを感じていたような気もするが、ひょっとするとそういった被差別者として通じ合う物があったのかもしれない。事件の舞台となったマンハッタン信託銀行の様子は、まるで現代社会のミニチュアみたいだ。

 

慧眼を持った人間が聖人君子とは限らない???

ハリウッドは白人のモノ≒有色人種が立ち入る事は不可能である(至言)最近はアメリカ資本の映画でアフリカ系やアジア系、ヒスパニック系の俳優の活躍も全く見られないワケじゃないが基本は脇役ばかりで主演は未だ珍しいし、日本系の俳優で言うと真田広之さんとか浅野忠信さんとかはその最たる例と感じる。国内の大型スクリーンで配給されるモノはやはり白人メインばかりだと思うし、そういったモノが見たければむしろNETFLIXとかVODの方がよほどコンテンツ的に豊富だと個人的に感じている。*2スパイク・リー監督は、’80年代にキャリアをスタートさせて以降アフリカ系に対する差別に抗い、映画業界において有色人種でも活躍できるように尽力し続けて来た異端児だ。彼のバイオグラフィ無しでは、今日におけるアフリカ系映像作家の活躍もきっと無かったハズだろう。

しかし付け足しておくが、このスパイク・リーという男かなり過激な言論で批判が絶えない人物でもある。一時期はアフリカ系に対する文化や差別に対して思慮に欠けるという事で、クリント・イーストウッド、スティーブン・スピルバーグ、クエンティン・タランティーノといった名だたる名匠らとかなり険悪な関係に陥っていた。また右派で白人の政治家に対し、露骨に攻撃的な論調で批判を浴びせ続けている。そんな訳で、ハリウッドで最も嫌われている悪名高い映画監督として槍玉に挙げられる事もしばしばだ。ただトランプ政権で白人至上主義、LGBT含むジェンダー差別などで分断がエスカレートし殺伐としてる今のアメリカを観るに、そういった紛糾もむべなるかなと言った感じもあるにはある。

そういった監督個人に対する指摘を知ってか知らずか研ぎ澄まされた才能こそ持ってはいるが、人間性はクソという人物が本作には多数登場している。また昨今SNSで散見される「自分はこれだけ傷付いた!だからどんな不平不満を訴えても良いし、お前らもそれに倣え!!」という身勝手過ぎる正義を振り回す連中が、世の中に取ってどれほど厄介かもそれとなく描いている。

日本だと『糞リプ野郎』とか『ポリコレヤクザ』とも評される自分の正義=世界の正義だと信じて止まないアホのエゴ野郎を英語圏では

"SJW" =Social Justice Warrior

と呼ぶらしい。硬派な犯罪映画でもあるし、アメリカの歪んだ社会情勢や差別意識も垣間見る事も出来る秀逸な"怪作"。公開されてから間もなく15周年を迎える本作だが、白が目立つモダンでシックなマンハッタンの街並みは時間を感じさせず、むしろ差別意識を拭い去れない現代の私達に、色んな疑問を投げかけているような気がする。

あ、それとNETFLIXでオススメなのが"The Boondocks"とDCコミック原作のブラックライトニングのふたつ。特にブラックライトニングは、アメコミ原作らしからぬ踏み込んだダークさとエンタメ性を両立してるのでオススメ!

*1:いやチビッてたかも… とは言っても映画観て漏らすぐらい感動したり、あるいはショック受けたりってほぼほぼ無い事だろうし、ポジティブな経験として記憶したい。ちなみに二回目。一回目はマトリックスでネオとトリニティがSP会社の玄関受付を突破するシーン。あれを初めて観た時は劇場のシートにしがみついてブルブル震えた憶えがある。

*2:実際、観たくても"US"は全国規模でまともに上映されなかったしね。

それにポン・ジュノ監督の『パラサイト-半地下の家族-』がアカデミー賞を掻っ攫った際マジギレしたトランプのアホ含め、映画を観てすらいないアメリカ大手メディアがこぞって袋叩きした様子を観るに、ハリウッドにおける有色系の映像作家の大成はまだまだ遠い未来に感じる。

その点で言えばワイスピってやっぱスゲーな!