血を吸う大地のよろずブログ

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シュールで不気味だが儚い冒険(?)映画『スイス・アーミィ・マン』をザックリとレビュー

不気味でシュールだが切なく前向き

オススメ強度:★★★☆☆

'16年製作。主演のダニエル・ラドクリフが死体に扮した米国映画で、しかもその死体が泳ぐではなく放屁で水上バイクの如く海上を移動するというセンセーショナルさから当時のサンダンス映画祭で公開後、ここ日本でもかなり目を惹いた一作。

国内におけるダニエル・ラドクリフの著名さからか、プロモだとどうしてもダニエルが中央に据え置かれる事となるが、本作はポール・ダノ演じるハンクとダニエルのメニーのダブル主演といった形。ダニエルも死体役は相当しんどそうだったが、物語を牽引するのは優柔不断で容姿もイマイチな男ハンクであり、彼の悩ましい内面の描写とメニーとのふれあいこそが本作のテーマになっている。

自殺を図るほど八方塞がりだったハンクの前に、生きてるんだか死んでるんだか分かんない男メニーが突如現れる。メニーは水上や水中を屁で高速推進したり、飲み水を口から吐き出してハンクに提供したり、勃起したナニを方位磁針として活用したり、前歯で火起こしや枝の加工までしたりと多機能ナイフ=スイス・アーミィ・ナイフの如く活躍し、ハンクを助ける。

一方、メニーは世の中どころか、女性という生き物が何なのか分からないぐらい知識がまるで無い。ハンクはかつての思い人が居た事をメニーに打ち明けながら、世間の仕組みだったり、恋愛や家庭の難しさだったりを語り始める。しかし、世の中を知らないメニーにとって「そんな事ダメだよ」「それが常識なんだよ」とハンクが語る世間体や常識みたいなモノが歪に観えてしまう。緑の深い森の中を右往左往しながら、イラつくぐらい素直なメニーと話し合う内、ハンク自身も次第に自分と真摯に向き合い始めるのだった。

予告編だけだとイマイチ雰囲気が掴みづらいが、大人向けの絵本みたいなヒューマンドラマで、ダニエル・ラドクリフ扮した不気味で出オチ感満載の死体メニーの設定も、結末においてはかなりエモい後味として効果的に活用されている。また、便利だけど何も知らないメニーの目線を通し、シャバで誰しもが知らず知らずに厳守してる暗黙の了解だったり、他人様の目線を気にしがちな現代人に対して改めて疑問を投げかける内容にもなっている。二人で手作りしたバスからフツーの日常を見直すシーンは、この映画の中でも特に象徴的で、日々の暮らしに揉まれながら自分達が何を見落としていたか再認識させられる気分だった。

誰かの目の前でオナラするぞ!と意気込むメニーに内心辟易しながらも、深い森から脱出しようと奮闘するハンク。永遠に続くかに思えた二人の冒険は思いがけない形で決着する事になる。大勢の人が見守る中、浜辺に横たわるメニーに身を寄せるハンクの、そのどうしようもない背中の切なさに心打たれる。観終えた後、遠方へ赴いて疎遠になった家族や友人達と話してみたくなった。薄汚れて汚らしい風貌のメニーとハンク。しかしそんな二人の冒険は、日々に隠れた輝きや絆をもう一度取り戻させてくれる。

 

ハンクをどう捉えるかでだいぶ評価が分かれる映画だと思う

※ネタバレ含む為、閲覧注意!!

ここまでだいぶ褒めちぎったがオチの「ホントか否か」問題、更に劇中のハンクをどう取るかでかなり賛否分かれそうな一作。話が若干逸れるけど、リリー・フランキーは絵本『おでんくん』を手掛け始めたきっかけについて「当時流行していた大人向けの絵本が嫌で、ここから先はアナタの物語みたいな終わり方が気に食わなかった」と某番組で発言している。

本作はまさしくそんな幕引きなので、他の大勢が絶賛してもまずリリー・フランキーは難色を示すんであろう。それと浜辺や新緑の森といったファンタジックな世界から一転、ハンクとメニーは結末に向かって普通の日常へと引き戻される訳だが、ようやっと民家に辿り着いた後の描写があんまりにも生々しく、結構どころかかなり容赦無い演出な様に感じた。

また本作は「現実とも取れるし、初めから妄想とも取れる」風である点も見逃せない。ハンクについては確かに同情出来る余地もあるにはあるんだが、穿った観方をすれば寂しさと思春期拗らせるあまり森の中で無駄に壮大な人形遊びしていたとも解釈出来る。うーん…キモイ… バスのシーンは間違い無くクライマックスなんだが、改めて観るとポール・ダノの徹底した演技と製作陣渾身の演出ぶりもあり、エモさキモさが同時に襲い掛かって来て頭が混乱してしまう。また『凸凹コンビのサバイバル冒険映画!!』と言えば聞こえは良いが、ハンクはふたつの意味で微妙に"じりつ"出来て無い様にも思える。*1

ハンクの内面については批判もあろうが、個人的にメニーの魂は確かにあったんだと解釈している。

*1:なんだかんだスマホが手放せなかったり、メニーが多機能ナイフの様に活躍する描写から察するに、結局ハンクはモノに支配されていて、何かしらに依存しなければ生きていけない男と捉える事も出来そうだ。

またメニーが最初から物言わぬ死体であったなら、ハンクは既に精神がだいぶ失調気味で、他人を尊重出来ないサイコな物狂い野郎だったのかもしれない。劇中、ハンクは家族と上手くいっていない風だったが、それも当然だったのかも…