しかめっ面のポールが強烈過ぎる、やり過ぎ演出が印象的な探偵物語
そういう訳でリフォーム後の映画レビューは初となる。今後も気合い入れて、トントン拍子に映画に、ゲームに、色々と紹介して参りたい。
今回ご紹介したい映画は『動く標的(Harper '66 米)』。
オススメ強度:★★★☆☆
チャールトン・ヘストン、ヘンリー・フォンダ、そしてポール・ニューマンと激シブな米国俳優との巧みなタッグで名高いジャック・スマイト監督の、恐らく劇場映画処女監督作品。*1
名作との評があるにもかかわらず、ソフト化には恵まれていない不遇な一本。自分も20年前に15型のブラウン管で一度観て以来しばらく鑑賞出来なかった。しかし、数年前にBSで放送される機会があり、本作を久しぶりに拝む事が出来た。
子供の頃「よく分かんないや」と感じていた物が、大人になって「面白いな!」に変わる瞬間が誰しもあるだろうが、本作に関しては相変わらず「何だこりゃ‼訳わかんねーな!」という印象。
映画の筋書はこうだ。離婚調停中の冴えない私立探偵ハーパー宛に、行方知れずの大富豪サンプソンを捜索してくれと依頼が舞い込む。しかして、ハーパーの奮闘むなしくサンプソンは死体で発見される。「おい‼これからその『動く標的』ってのを観るかもしれないのにネタバレしてんじゃねーよ!」といきり立つ、そこの御方。心配御無用。
本作はサンプソンがくたばって尚、トップギアで突っ走るのだ!
"動"的な演出がとにかくパワフルな探偵映画
原作小説もそうだけど『動く標的』ってタイトルはホントに舌を巻く素晴らしいセンスだと思う。本作は事件がひとつ解決して、ハイ終わり…となってくれない。むしろ容疑者連中が積極的に現れては、場を狂わせ続ける始末だ。どいつもこいつも富豪サンプソンの悲劇的な顛末に一枚噛んでいる。だとすれば、本当の黒幕は誰なのだろう?
本作は探偵映画に、より深くキャラクターを落とし込んだ群像劇サスペンス映画の走りとの声もある。劇中に登場する男も女も、皆魅力的で印象深く、しかも全員うさん臭い。また、ジャネット・リーやパメラ・ティファン等、シックな装いながらもグラマラスな女優達の共演も見逃せない。女性陣は何故かカメラ目線で全身をしなっとさせたカットが多く、ちょっとフェチ。
それと主人公ハーパーの「何事にも無気力で能も無さそうな男が、鋭い洞察力で真実に押し迫る」という、今ならありがちなキャラクター像をポール・ニューマンが体を張って演じ切っている。
ハーパーの落ちぶれ方も見逃せない。ダークスーツが埃で真っ白になり、目元は血色悪く赤く腫れ上がり、ヘアスタイルはダサく(しかも頭までホコリまみれになる)、野郎どもに殴られまくってヘロヘロ…やり過ぎな気がしないでも無い。
しかし、ポール・ニューマンのギラギラした睨みが凄まじく、そこまでされても屈しないハーパーという男に説得力を与えている。カルト宗教の神殿でボコボコになるまでやられてしまい、プール(?)に横たわるシーンがあるんだけど、気だるげながらも宙を見据えるハーパーのその横顔に痺れる。そして真実に迫るエンディングで、黒幕が凶器を手にしたまま心折れてしまい、思わず悪態をつくハーパーがシニカルながらもチャーミング。
本作のヒットが後年に与えた影響もまた大きく、真犯人そっちのけで事件が深刻化するサスペンス映画を製作する際の手本となり、多層構造なミステリーやサスペンス映画が多く産み出される下地となった。
また、DCコミック原作ながらも独自のアレンジを施し、一部の層に未だ崇め奉られている力作『コンスタンティン』で、キアヌ・リーヴス演じた主人公ジョン・コンスタンティンの人物像は、本作のハーパーをベースにしているとも。実際、主人公のややだらしない容姿や劇中の言動、事件の皮肉過ぎる真相とその結末など、共通点も多い。
私の教養が足りなかっただけで、世のなろう系小説の主人公も、基を辿ればこのハーパーだった可能性すらある。
ただ、個人的に思う事は演出が力技過ぎる点。工場や神殿での乱闘シーン、高級車が山から転げ落ちて運転手の美女が犬死にしたり、トラックでひき殺されそうになったり、唐突に銃で撃ちまくったりと、とにかく動的な演出がパワフル過ぎる点は、やや気になる点ではある。
しかし、それも含めて魅力的な映画と言えるだろう。世に溢れるサスペンス映画に新たな地平を拓いたエポック・メイキングな一作との評もある程だ。生活感皆無ながら、眼光鋭いポール・ニューマンの演技が、文字通り突き刺さる。
本作観た翌日の朝は、きっとあなたも洗面所に大量の氷を持ち込みたくなるだろう。
(前述した通り、マトモにソフト化されておらず、中古の円盤が高騰している状況。どっかで版権をウマい事回してくれない物か…一方で、何故かBSやCSでHDリマスターを放映している場合アリ。気になる方は番組表をアプリか何かで要確認!)
*1:
元々、TVドラマの演出や監督を担当していたらしいスマイト監督だったが、この映画がウケた為に、その後は劇場映画の監督としてキャリアを発展させる事となる。
また原作はロス・マクドナルドの推理小説"Moving Target"だが、主人公である探偵リー・アーチャーの名を、映画版ではリー・ハーパーに変更させている。変更の理由については、主演のポールがゲン担ぎの為に変えさせた、原作者のロスがキャラクター版権を保持したかったから等、諸説ある。